2026.04.22

新代表取締役社長就任および吉田正樹との対談を公開

新代表取締役社長就任および吉田正樹との対談を公開

ーー吉田正樹事務所が18周年を迎え、2026年の2月22日をもって代表が野坂さんに変わりました。真逆な印象のお二人ですが、吉田正樹事務所の代表権を禅譲した理由や人となりを伝えられる対談ができたらと思います。

野坂:ちなみに禅譲というのは、血縁関係はないが信頼のおける人に地位などを譲るという、僕の好きな言葉です。

吉田:「継承」を前提とした企業というのがあるんです。企業理念があって、それをそのままやってほしいというのが「継承」。だけど、吉田正樹事務所の出発点は極めて自分自身の存在や個性に依存してスタートしたものなんですよ。

野坂:吉田正樹に依存した会社という位置付けですね。

吉田:これからは野坂君が舵取りをしていく。

野坂:はい。吉田さんは会長ではあるけども。

吉田:生物界では本来、自分と同じものを複製して育てると言われてるんですよね。もしかしたら自分を倒す存在かもしれない。にも関わらず一生懸命育てるというのは、自己を否定することにもなるし、自己矛盾であると思うんです。この場合は会社だけども、その自己矛盾が大切だと思います。

野坂:生物界では真逆な行為をしていると。

吉田:吉田正樹事務所は、変わることこそが自分たちなんです。もちろん野坂君の考えもあるから、十数年の中で時には意見がぶつかることもあったし、共鳴することもあった。そこに立場は関係ないと思うからこそ、今の吉田正樹事務所があるような気がしますね。

野坂:自分の名前でやっている会社ということで、ずっと吉田正樹という名前に頼ったビジネスをやり続けようと思っていましたか?

吉田:それは、何をすればいいかを探す18年だったんだと思いますね。自分探しをすることが、吉田正樹における吉田正樹の立場だった。たまたまそれを手伝ってくれるスタッフがいっぱいいてくれた。気が付けば、自分が自分ではないところにいた。テレビ、インフルエンサー事業、映画と様々なことをやりながら探し続けてきたことが、時代に追いかけられてきたという形になったような気がしますね。

野坂:吉田正樹事務所ではコンテンツの制作や広告代理店業、クリエイターのマネジメントをしています。「マーケティングってなんだろうか」「バズるコンテンツって意味ありますか」ということも、クライアントと対話するようにしています。これはマーケティング会社の自己否定なんですが、「そんなに儲ける必要って本当にあるのかな」というビジネスの本質を常に考えてはいるけど、実際にはご飯を食べていかないといけない。儲けるために捨ててはいけないものまで手放すことがある。それはどこまで必要なのかなという思いを抱えています。まさに自問自答と自己矛盾、自分のビジネス自体がビジネスの否定にもつながる。

吉田:ビジネスは目的のためにあるけれど、自己目的のためにビジネスがあるわけではないはずで。だけど、何をするにしてもお金も多少は必要。そのために稼ぐ、シェアを得る、信頼をされるというのはあるけども、その目的自体が金銭やパワーになっては迷走してしまう恐れがあると思うんですよ。

野坂:どんなにお金の余裕があったとしても。

吉田:その目的がない人はとても辛いですよね。例えば、アートの世界で「何であなたは絵を描くんですか」と聞いてもなかなか答えはなくて、「やりたいから」という理由だけでしかないと思うんですよ。それがわかっている人は迷うことはないんじゃないかな。

野坂:「稼ぐためです」って答える人、あんまりいないですもんね。

吉田:だから、稼ぐべきは稼いで、やりたいことはやればいいという気持ちでいることが大切なんだと思いますね。

野坂:今、一部はクライアントから直接仕事をもらうような形で制作しているけれど、そのビジネスの発注の構造自体に疑問を持つこともあるんです。僕は、この世界のことしか知らないんですけど、クライアント自身も発注の仕方がわからないパターンがあって。さらに金銭の授受によってパワーバランスができあがって、現場が疲弊していく。

吉田:休みがなくなってしまう。

野坂:クライアントへ「そういう構造自体や発注方法をちょっと考え直しませんか? 」ということも提案しています。早くコンテンツを作ることがセールスにつながることもあるので、常に自己矛盾とは戦っていますが。だけど、そういうことができたらいいなと思っています。

吉田:広告制作は、本来、隅々まで計画されている。でも、誰かが「助けてくれ」というので、そういう発注になったりすることはある。その人を救おうと思うかという一点に尽きる気がしますね。そこは、ビジネスのためにやるとは考えない方がいいと僕は思います。

『今いるところから逃げろ』

吉田:時代の空気を汲み取って、求められるものを作るというのが基本中の基本だと思うんですよ。でもこれは、やってみないとわからない。全てのものを吸収して最後に「好きなことをやればいい」と感じてくれるはずなんですよ。そこに帰結するはずなんじゃないかなと。社会の中心が何であれ、ずっと端っこにいようとすることが重要。そう思いますね。

野坂:中心に行かないように心掛けること、ですね。

吉田:だから、ぬるい世の中に安住せずに逃げ続けることが大切だと思うんですよ。禅譲と言っても、僕は引退して今日からいなくなるということはできないんです。だけど、野坂君には知らない人をいっぱい呼んで、「わ、何でそんな人呼んじゃったの?」って僕が呆れるような会社にしてほしいですね。

『何が正しいかなんて今はわからない』

野坂:(インタビュアーからの質問を受けて)影響を受けた人……、僕はライムスター宇多丸さんをすごく尊敬しているんですけど、宇多丸さんの最近の言葉で「人にNiceであることだけが世界をより良くする唯一の方法かも」という旨の話をしていて、僕もそこは大事にしていきたいと思ってます。

吉田:僕は意地を持って死んじゃった人たちとかに影響を受けたかな。

野坂:吉田さんからローマ帝国の話を2億回聞かされてる(笑)。唯一の経営指南がそれ。「ローマ帝国の崩壊」からずっと聞かされてた。

吉田:どんな栄耀栄華も滅びるんですよ。その無常感。自分が持ってる基準が。

野坂:歴史得意でした?

吉田:得意だった。一番は数学。数学には答えがあるけど、歴史には答えがない。

野坂:歴史から学べですね。今を楽しんで未来を知ることを教えてもらいましたね。

吉田:あと、生物学、進化論が好きなのよ。「強い者が生き残るのではない。環境に適応した者が生き残るのだ」というのが「適者生存」なんだけど、何が正しいかなんて今はわからない。だから、配慮もしつつ、自分が信じることをやるしかないということになると思うんですよ。

野坂:結果はすぐには出てこない、と。

吉田:僕は、刹那的にテレビ番組を作ってきたけれど、歴史の中でどういう役割を果たしたかは後になってみないとわからない。夢中で熱い青春時代でなければ、雑念を持つことはない。若い時から計算ずくで作っても、想像の範囲から飛び越えることなんてできないんじゃないのかな。だから、考えてみたらフジテレビに入ったのもむちゃくちゃ、辞めたのもむちゃくちゃ。途中もずっとむちゃくちゃで「何やってんだろうな」と思う。そのおかけで、むちゃくちゃな老人になってしまった(笑)。

『自分と違うから託したい』

吉田:僕が野坂君に会社を託そうと思ったのは「自分とは違うから」。違って似てる。

野坂:似てて違う、ともまた違いますよね。

吉田:似てて違うとケンカになるから(笑)。

野坂:そもそも、僕は社会的接点を持たないカウンターカルチャー的な人間だったので、そのカウンターの対象物の吉田さんから何か学べたらと思いました。自分とは肩書きが真逆な人という理由だけで繋がって入ったんです。

吉田:いい理由だよね。

野坂:その時、僕がジャケットを持っていなくて、唯一の一丁羅であるベストを着て行ったら「変なやつ」というので入れてくれたっていう。

吉田:そうだった(笑)。

野坂:最終的に変なやつを取った。

吉田:なんだか酒場にいるみたいな気持ち。

野坂:いいですね。すごく純朴な酒場です。

『縛らずに信頼を共有する場』

野坂:うちは「来てくれるものは多少選ぶが去るものは追わず」タイプの珍しい所属システムじゃないですか。僕は所属は管理ではなく、基盤だと思うんです。だから、「コモンズ」という位置付けにしたいんです。アーティストエージェントと所属のいいとこどりのハイブリッド版です。

吉田:ここでは、誰もダースレイダー(※吉田正樹事務所所属のラッパー)に「政治的な見解」を教えていない。ラップのトレーニングをしたわけでもない。でも、どうやって手助けができるかというアイデアはありますよね。そうやって、分業するシステムだったから、いいパートナーになれたんだと思いますね。それが「エージェント」ではなくて「コモンズ」というやり方にだんだん近寄っていくような気がします。

野坂:ひとつの生き方にコミットしていく。

吉田:縛らずに信頼を共有する場をうまく使っていくというのが野坂モデル。「この人儲かるから入れよう」というビジネス的な視点ではなく、「友達になれるかも」その基準だけで十分なのかもしれない。

野坂:「性格採用」なんですよ。それは昔から吉田さんが「いいね」って言ってくれていて。

吉田:社員だって厳しい人は採用しないもんね。みんな、とても性格がいい。

野坂:そうですね。実力とか技術は後からついてくるけど、僕は、性格はあんまり後からついてこないと思ってるんですよね。

吉田:この会社の基本は「友達」なんですよ。「友達が困ってたら助けに行くでしょう」とか、「友達に今日ちょっとこれ来ない?」って言われたら面白そうだって思う、それだけで成立する関係。

野坂:一緒に働く人たちと対等でいられることに重きを置く。社長ではあるけど、僕に権力は集中させないし、常に主格を疑う。吉田さんが「自分は何だったんだ」と思っていたように、傲慢にならないことが、今後のビジネスの唯一の肝なのかなと思っているんですよね。

『わからないものは他人に任せる』

吉田:僕と君が似ている部分は、ちょっと自分に自信があるから、「本気を出せば何でもできる。できていないのは本気を出さないから」と思ってしまうところ。

野坂:それはよく自分に言い聞かせてます(笑)。

吉田:「今日は本気出したかったな」みたいなね。

野坂:あと、合言葉は「自分はわからない」。自分がわからないものは他人に任せて、わかった口を聞かないようにしたい。

吉田:でも僕は大体知ってるはずだから。勘違いだろうけどね。口を挟んじゃうんですよ。

野坂:何でも40%くらいは知ってますよね(笑)。でも、正解がわからないから、人に託す。

『ひとつのイシューや理想に対してだけ集まる』

野坂:吉田さんはホールディングスみたいにしたいと言っていたんです。僕は「コレクティブ」という概念にしたいと思っていて。コレクティブはアートの世界で、ひとつのイシューに対してその時に集まって一つの作品や場を作る感じなんです。で、完成したら解散するけど、それでもどこかで繋がっている。そこで依存し合うけど、途中で抜けてもいい。「どこかがダメでもどこかが良ければいいじゃん」みたいなことを、吉田正樹事務所中心でやれたらいいなと思っています。

吉田:コレクティブ、とてもいい関係だと思いますね。

野坂:法人や個人は違うけど、ひとつの発注がこのコレクティブで全て完結する。これが拡大していけば、ある種ひとつの株式市場みたいにできるんじゃないかなと思っているんです。

吉田:だから、吉田正樹事務所18年の歴史の中で、その都度、中心的事業が移り変わっているのは「ワンシーンワンイシュー」ということだったんだね。

野坂:常に時代の変化に戦々恐々としてるわけですけど。そうすると、これからのビジネスは属人的になるしかないと思っています。

吉田:属人的か組織かとすると、これからのカルチャーで結びつくしかないのかもしれない。心の持ちようみたいな分け方で、組織ではなく連帯。横に繋がって共通の目的の中で結束する。そういうことなんじゃないかなという気がしますね。考えてみたら、野坂君はずっと人に優しい。優しいけれども、あなたの方が僕よりは頑固だと。

野坂:そうかもしれないですね(笑)。

吉田:そこは相矛盾するところかもしれないけれど、野坂哲史に禅譲できてよかったです。

野坂:吉田正樹事務所の10周年の時に僕が吉田さんに「ズッ友だよ」みたいなことを言ってましたね。

吉田:あなたは、情が深すぎるところが弱点かもしれない、という呪いと祝祭の言葉をかけておきます(笑)。後はよろしく。

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